相談日記 02 :お墓と仏壇の悩み
- 2016年06月23日
○「仏壇のことで相談したい」と檀家の孫が来ました。彼は妻と子供二人家族の40歳。
住職:相談はどんなことですか?
彼:「爺ちゃん、婆ちゃん」が住んでいた実家を明け渡して欲しいと大家さんに言われ、叔母と二人で家財道具を整理してます。廃棄するものは市のゴミ焼却場へ運びましたが、仏壇や位牌は廃棄してもいいのですか?
住職:お墓はどうするの?
彼:「爺ちゃん、婆ちゃん」が入っているので自分が守っていかなければと、思ってます。
住職:お仏壇も廃棄しないで守っていってあげて欲しいと思います。
○彼の家では祖父母が10年ほど前に亡くなりました。その後は離婚した彼の父親 が住み、仏壇やお墓を管理していました。しかし、その父親が数年前に行方知らずとなり空き家となってしまいました。
彼と叔母(父親の姉)が父親に代わり家の中を片付けることになりました。
初めは「自分が何でこんなことをしなくてはいけないのか」と片付けを嫌々始めました。
叔母にとっては生まれ育った家なので父母の遺品や写真を懐かしみながら彼とこんな会話をしたそうです。
叔母:このおもちゃは、爺ちゃんがあなたに買ってきたものだよ。この写真のように、爺ちゃんがおまえを抱いて可愛がってくれたよ。
彼:「爺ちゃん」には、殴られた記憶しかない。殴られると、「婆ちゃん」が間に入って守ってくれたから「婆ちゃん」は大好きだったが、爺ちゃんは嫌いだった。
○彼は、叔母の話を聞くうち、嫌っていた祖父の内心は自分のことを思っていてくれたと知り「ありがたかった」と思ったと言います。
私(住職)は、嫌いだった祖父をありがたいと思えるようになったのなら、お仏壇も守れるのではないかと考えて次のように話しました。
住職:仏壇もお墓と同じく、あなたが守って行く事はできないのかな?
彼:今は家が狭くて、あんな大きなものを置くところがないです。
それに、会社の先輩に聞いても仏壇を持ってる人はいない。仏壇の相談をすると、仏壇より「自分はどうやって死ぬか」「死んだら家族にはなにを残すか」ということに関心があり仏壇には関心がもてない。
○彼にとってお墓は、爺ちゃん、婆ちゃんが入ってるところだから守っていきたい。しかし、周りには仏壇を持ってる人もいない。十代で独立して生きてきた彼は、家で仏壇にお参りする習慣もない。だから、仏壇は自分には関係ないものだと考えてるようだ。
住職:あなたも会社の先輩と同じように考えるの?
彼:自分には良くわからない、今は仕事のことで精いっぱいで考えられない。
住職:仕事のことというと?
彼:自分達の会社は中小企業で、明日がどうなるか不安です。
住職:何が不安なの?
彼:下請けだから景気に左右され、いつ仕事が無くなるかわからない。順調なときはいいが不景気になると「親会社は業務を外国へもっていき、明日からは、もういいですと」言われた会社も身近にあります。
○彼は、家族を養うことで懸命なのだ。会社が生き残るために、仕事の改善に取り組み業務を効率よくやりたい。そのために自分の仕事のやりかたを若い人に教えたいと考えるが、もともと人と話すのが苦手なので、うまく伝えられなくて悩んでいる。
そんな彼に「真摯な態度」を感じた私(住職)は、彼の家族と話し合おうと思った。
住職:いつまでに、家を明け渡すの?
彼:来月中には、
住職:それまでに、お仏壇の精抜きのお参りをしましょう。そこで叔母さんやあなたの家族とお仏壇のことを相談しよう。
○そして、ひと月後、叔母夫婦や親戚、彼の妻と子供も一緒にお参りをして仏壇の精抜きをした。お参りのあとで全員にお仏壇、お位牌の話をした。
住職:お仏壇は仏様、ご先祖の住む家である。ご本尊と位牌を祀れば、それがお仏壇です。大きさや広さの問題ではありません。小さな箱でもお仏壇になります。
彼の妻:場所とか、広さはどうですか?
住職:位牌とご本尊を置く広さがあればどこでもいいのです。
彼の妻:家のどこかにスペースを作って、お位牌を安置していいですか?
住職:いいですよ、場所は家族の皆さんがいつも目につくところがいいです。
彼の妻:それでは家の中を整理して、どこかに場所をつくりますので、それまではお寺で位牌を預かってくれませんか?
住職:そうだね、家でお守りできるまで預かりますよ。
○一家の当主としての不安な毎日を耐えて努力してる彼やその家族が、お仏壇に位牌を祀ることが出来ることを祈り、しばらくはお寺で位牌を預かることにしました。