相談日記 01:霊的な悩みについて

  • 2016年06月08日

父母と10代の娘さんの家族が、「娘が霊に憑かれているので」と相談に来ました。 

DSCF3049 娘さんは自分で歩くことができず母親に抱えられながら寺務所へ上がってきました。

 座敷にうなだれて座っている娘さんのとなりで母親が話し出しました。

 ・娘には強い霊がついていて自分の頭を壁にぶつけたり、自分の身体の同じところを何度も痛がったり、放って置くと突然に外に飛び出してしまうことがある。

 ・さらには娘には悪魔がているので、よそで悪魔払いもやってもらったがだめだった。

     大人しいときもあったが、暴れると自分たちにはどうしていいのかわからなくなった。

 ・そして、娘の傍で同居の叔母が「観音経」を読むが収まらない。娘に()いている霊を払って欲しいという。

     両親から今までの経過を聞きながら娘に問いかけても、うなだれて無反応である。

 私(住職)が母親に「大変だね、いつもこうなの?」と尋ねると、母親は自分のことを話しはじめました。

・自分は「心の病」で通院し投薬をうけている。薬を飲んでいると、こうして落ち着いているが、飲まないと死にたくなる。家計のために薬を飲みながらパートで働いている。

 

住職:薬は不安などを抑える効果があるが、心身を休めると薬の効果も上がるので休むといいのでは?

母親:私のうちは、生活があるのでわたしも働かないと、だめです

住職:薬を飲んで働くのは、車のブレーキを踏みながら、アクセルを踏んでエンジンを()かしてるようなものだよ、いつか、車が(こわ)れてしまうよ

母親:そうです、だから私、死にたくなります

住職:身体を休めて、休息する、横になる事も大事ではないですか?

母親:嫌です、私は負けたくないです。娘のためには何でもしたやりたい、自分が休むなどという「ズル」はしたくない、自分にもプライドがあります

 

住職が再び、項垂れる娘に声をかけると、「ウーン」とうめくような声をだし、首を前後

強く振り出した。父母は娘を抱え、体をさすり、大丈夫?どうしたの?落ち着いて、頭を

振らないで、と言いながら、娘の腕や手を握りしめている。

 

母親:いつもこうなのです

住職:抱えたり、声をかけたり、手を握ったりせずに、優しく見守るようにしてみて?

母親:大丈夫でしょうか?

住職:お寺は広いから外に飛び出しても大丈夫ですよ

 

父母は娘の体から手を離し、様子をみる。娘は急に立ち上がり外に出ようとする。

 

住職:いつもこうなのですか?

母親:そうです、外にでたら、どうなるか不安です

住職:娘さんは、不安でここにじっとして居ることができないのではないかな?

 

外に出ようとする娘を、捕まえようとする両親。

 

住職:お父さんが傍についていて、娘さんを見守ってあげてください

 

娘さんと父親が外にでて、母親と二人になって、私(住職)は母親に問いかけました。

 

住職:娘さんの前で「死にたくなる」と母親が言うと娘さんは不安にならないかな?

母親:そう思います、でも母には負けたくない、母はライバルだから

住職:なぜそんなに負けたくないの、ライバルというのはどういう意味?

母親:母は、こどものころから私が、弱音をはくと、「負けるな」と言い続けました。

私は母に甘えたかったが、母は生活のことで、苦労していたので、母に迷惑をかけたくなかったから、自分も負けまいと思ってきました。

娘が幼いころでした「学校に行かなく」なり「閉じこもったり」したとき、どうすることもできないけれど、娘をなんとか学校にいかせたかった私は自分の十代の時のことを思い切って娘に話しました。

住職:どんなことを話したの?

母親:私が十代の時好きなひとの子供ができました。親も、兄弟も、周りの大人は皆、「産むな」「産むな」といいました。でも私は、産みたかったので産みました。「みんなに産むなと言われたことは辛かった」「それでも私は、あなたを産んだのよ」と娘に言いました

住職:ウーン、そんなことがあったの、悲しい思いをしたね、娘さんはどうなったの?

母親:それから、学校へ行くようになりました

 

「でも生まれてきた娘が可愛そうで、可愛そうで」と、泣きながら話出した母親は、ほんの少しの間泣くと別人のようになり、毅然と「あの時産むな」と言った周りの大人に「謝ってほしいです」「娘にも私にも」「娘にも私にも」謝ってほしいと私(住職)に言います。

外に出て行った娘は車の中に休んでいました。父親が車の傍で見守っています。

私(住職)は母親と父親に声をかけ3人を本堂に呼び入れました。

少し落ち着いた娘さんには「これからお母さんやあなたを守ってもらうように仏様にお願いしますから、手を合わせてお参りしましょう」母親には、「悪魔や霊がつかないように、払ってあげます、仏様に助けてもらいましょう」と言って読経し祈祷を始めました。

法務(読経、加持(かじ)祈祷(きとう))を始めしばらくすると、「母親の様子が変わり、心と体が動き」だしました。私(住職)は導師(どうし)として母親に問いかると、母親の心の深いところから言葉が溢れ出しました。

 

導師:なにか、言いたいことがありますか?

母親:「子供を連れて行かないで欲しい、私は寂しい」

 

そのことを苦しげに、絞り出すように話し、感情がピークに達すると、その場に前のめりに倒れました。私(住職)は導師として母親に「お守りの加持(かじ)」を加え、3人の家族の安心と平穏を祈りました。

母親と父親を本堂に残し、娘さんを寺務所に連れて行き、次のように話ました。

 

住職:お母さんは今「休んでいるのです、休ませてやりましょう」今日のお母さんを見て、何を思いましたか?

娘:お母さんは、妹弟がいるので、祖母(母の母)の代わりに「頑張らないといけない」と生きてきたと思う。私も「産むな」と言った人たちに、母親に謝って欲しい

 

さっきまで、「ウーン」と唸り、外に走り出した娘さんは、冷静に母親をみていました。

そして、母親に同情していました。

やがて、落ち着きを取り戻した母親と父親も寺務所に戻り、しばらくして三人で帰って行きました。

娘さんは、来たときと別人のように自分で歩き、私に会釈をして帰って行きました。私は、三人が仏様に守られるよう合掌しながら見送りました。

 

以上は、「霊に憑かれてる」ので、「除霊」してほしいと相談に来た家族と私(住職)のやり取りを要約して紹介しました。

いわゆる「霊障」に苦しむ人が10人いれば、苦しみも十人十色です。その一人一人の過去に理由(わけ)があり、今苦しんでいます。多くの苦しみの人は、その過去の理由(わけ)に気づかず、霊障に恐れ悩んでいます。

・娘が、仕事が長続きせず、不安や不満を訴えても、負けず嫌いで几帳面な母親は、娘のいうことには、耳をかさず「負けないように」説得を続けてきたようです。

・「生活のために休まない」という背景には、母親の「負けたくない」という、強い思いがあります。

母親の愛が時には、子供を苦しめているのです。            合掌